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手術中に音楽をかける


私の担当医は若い女医で明るい方で、その人の人柄で気分が大分違った。てきぱきと説明も的確。 医者を志す研修生が数名いて、全員女性だった。平成の傾向なのではないかと。

前日に説明書を読んでいたら「手術中に好きなCDをかけられます」という事項を発見した。

旦那にNorah Jonesを持ってきてもらい、当日看護婦さんに渡すと 「え?CDかけたいって患者さんが今までいなくて知らなかった!持っていってみよう。」と面白がってくれた。

手術前室はドラマや映画で見るのとほぼ同じ、と聞いていて 確かにその通りだった。

少し違ったのは、電灯が青白い蛍光灯色ではなく、オレンジ色だった。そして思っていたより室内は広かった。 担当の先生を始め、麻酔担当医、その他全員女性だった。

麻酔ですぐ聞こえなくなるからと、早めにCDをかけてもらえた。 BGMとして天井あたりのスピーカーから流れてくるのかと思ったら、 手術室の隅に昭和な感じのCDラジカセが置いてあって(ipod不可な感じの)、割と大きな音でかけてくれたのでした。

緊張した雰囲気の中、Norah Jonesの良い感じで気が抜けた音楽が広がって、持ってきて良かったと思った。

「気が散るかなと思ったんですけど・・」と言うと 「あら、大丈夫よ。あまりCDかける人は少ないけど、この前は東方神起持ってきた人がいたわ。」などとおしゃべりして ははははと笑ってたら「はい、麻酔入れるので、少しすると頭がぼーっとしてきますよ。」と言われて数秒で 視界が透明な液体に浸かってどろりとした感覚がしたと思ったら、もう全く意識がなかった。夢も見なかった。

「聞こえますか?」と先生の声がして、Norah Jonesのアルバムの最後の曲がかかっているのが聞こえてきて 40分経ったと判った。

目は開かないのだけど、「大丈夫ですか?」の声に「はい」と答えた。

左右にごろんとしますよ。と言われ、コロンコロンと2回反転しただけで手術台から病院のベットの真ん中にきちんと寝かされていた。 いまだにどうやったのか不思議。

目が開かないままどうもありがとうございました、と言った。すごく長文に感じたけど、これだけは言わなくちゃと思い。

意識が戻ってくるのと同時に、子宮の収縮のせいで鈍痛が始まった。耐えられる程度の鈍痛。

寝てしまおうと思ったけど、代わる代わる看護婦さんに状態を聞かれ、そのうちドっと空腹になった。

「朝も昼も食べてないからお腹が空いちゃって・・ジュース飲んでいいですか?」と聞くと 3時間後じゃないとだめだから、時間になったらすぐ教えてあげるからね!と言われた。

それから3時間後はウソみたいに痛みもほとんどなくなり、晴れて林檎ジュースを飲んだ。 病室内があまり好きではなく、広い空間に出て外を眺めながら夕食をモリモリ食べた。持参したクッキーなども食べた。

その日は、以前見た映画インセプションを思い出した。渡辺謙とデカプリオが共演していたやつ。

眠っているうちに夢の中に忍び込んでアイデアを植えつける為、深く眠れるけど合図で目が覚めるような睡眠薬を調合するシーンがあって。 静脈麻酔は疑似体験したような気持ちだった。痛みを感じなく、夢も見ないようにしながら、体に負担をかけないギリギリの量を実験して調合されたんだよね、と思って。素晴らしく何も感覚がなかった。時間が短かったとも長かったともどちらとも捉えられる。 この技術は凄いと感服した。

そして目が覚めたら、忙しく働く医師や看護師を見て、心底有難いと思い、 ありがとうございました、や お世話になりましたという言葉では言い尽くせないと思った。 きっと、就職前に入院したら、病院に何らか携わる仕事をしたいと思っただろう。 そしてこの人達はどんな思いでこの仕事を選択したのだろうと興味を持った。


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